毎朝、学校に着くと、私はいつものように職員室に入った。 「おはようございます」と声を交わす同僚たち。慌ただしい空気の中で、パソコンのスイッチを入れると、今日もいつも通りの業務が始まる。パソコンが立ち上がり、校内のお知らせ画面が表示される。会議の予定や業務連絡が次々と目に飛び込んでくる中、メールを確認すると「悲しいお知らせ」というタイトルが目に止まった。
「ああ、またか……」 胸の奥に重いものがのしかかる。それは、誰かの訃報。多くの場合、教職員の親御さんが亡くなった知らせだ。メールを読むたび、自分の未来が見えるようで息苦しくなる。「いつか自分もこうして名前が載るのだろうか」と考えてしまう。教師という仕事に誇りを持っている。でも、この職業に埋もれてしまう未来を想像すると、心の中に小さな違和感が芽生え続けていた。
旅行計画の始まり
2022年の夏、私は思い切って家族旅行を提案した。「この子が大好きなひょっとこ祭りを見に宮崎に行ってみない?」妻は目を輝かせてうなずいた。「いいじゃない!ずっと行きたかった場所だし、久しぶりにリフレッシュしようよ!」息子も「やったー!ひょっとこ祭りに行けるの?」と嬉しそうだ。そんな二人の姿を見て、私も心が弾むのを感じた。コ○ナ禍ではあったが、感染者数が落ち着いているタイミングを見計らい、3人分の飛行機チケットを取った。久しぶりの旅行に胸を躍らせながら準備を進めていた。
しかし、出発の3日前に状況が急変した。ニュースでは感染者数の急増が報じられ、小○都知事が「不要不急の外出を控えてください」と訴えていた。「どうする?」私たちは悩んだ。「せっかく計画したし、行ってみようよ。感染対策はしっかりすれば大丈夫」そう考え、私たちは予定通り旅行に行くことにした。
穏やかな旅の始まり
松山空港に降り立つと、目の前に広がる穏やかな瀬戸内海に心が奪われた。こんな景色、東京じゃ絶対見られない。息子も「海がキラキラしてる!」とはしゃいでいる。その無邪気な声に、日常のストレスが溶けていくのを感じた。夕日が海をオレンジ色に染め、夜には満点の星空が広がった。「こんな綺麗な景色がまだ日本にあったんだ……」私は心の中でつぶやいた。
予期せぬ出来事
しかし、穏やかな旅は突然の出来事で一変した。2日目の夜、息子が高熱を出したのだ。「どうしよう……体温計が40度を指してる」心の中では、「東京からコロナを持ち込んだと思われたらどうしよう」という不安が渦巻いていた。その不安がつい口をついて出た。「なんでこんな時に熱を出すんだよ……」言った瞬間、後悔の念が押し寄せた。「ごめん……俺、何言ってるんだ……」
星空の下での決意
その夜、私は一人で星空を見上げた。無限に広がる光の海は、どこか厳かで優しい。「このままでいいのか……」家族に支えられているのに、私は自分のことばかり考えていた。教師という肩書きに縛られ、周囲の目を気にして、本当に大事なものを見失っていた。「ちゃんと家族に向き合う人になりたい」そう心に誓った。
私は妻に言った。「教師を辞めようと思う」彼女は優しく微笑み、「あなたがそう決めたなら、私も応援するよ」と言ってくれた。東京に戻ると、すぐに校長に「今年度で退職します」と伝えた。そして、私たち家族は心を揺さぶられた愛媛の地で新しい生活を始めることを決意した。