毎日一緒にいると見えなくなることってありませんか。相手の良いところもだんだん見えなくなっちゃって気づいたら悪いところばっかり見えてしまう。自分の事はさておき相手にここを直してほしいあそこを直してほしいと要求することばかり。それは実は我が子に対しても同じだったりしませんか。

お子さんが修学旅行でいなくなったその夜に「今何しているのかな。友達とうまくやっているかな。寂しがっていないかな」と思いを巡らすお母さん。その体験はお子さんだけではなくお母さんにとっても大切なことです。そんなお母さんの思いを一番届けられる日は修学旅行だと私は信じています。

修学旅行を行う一ヵ月ほど前に保護者を呼んで修学旅行説明会を行います。そこでは修学旅行の持ち物やコース、費用等をお伝えするのですが、その時にこんなことを仕掛けます。

「こっそりお子さんに手紙を書いてみませんか?」と。説明会の資料の中に封筒と便箋を用意しておきます。そしてさらに大きな封筒も用意しておいてお子さんにバレないようにこっそり担任に渡仕組みを作っておきます。外の大きな封筒を開けさせてもらえますが、中の手紙が入っている封筒は担任は開けられません。

さあ寝ようと支度をしていた子どもたちは「何事だ?叱られるのか?」「俺たち何かしたか?」と言う顔で集まってきます。私も口をへの字に曲げ、真剣な顔で子どもたちを迎えます。そして「こんな楽しい修学旅行迎えられたのはまず誰のおかげだろうか」と子どもたちに問いかけます。子どもたちはみんな、「あ!」という顔をして親のことを少し思い出します。

君たちが生まれた時からずっと君たちを見守ってきたこと。

初めて歩いた日、涙が出るほど嬉しかったこと。

初めてランドセルを背負って一人で学校に行った時、心配で心配で見えなくなるまで見送ったこと。

暗い顔して帰ってきたとき「何かあったのかな」と思いつつ聞けずに夜中そっと涙を流したこと。

そして今、あなたのことを思い、あなたが仲間と宿泊できるまで成長したことを喜び、あなたの帰りを首を長くして待っていると言うこと。

ここまで話すと半分くらいの子はもうすすり泣いています。

「実は君たちに隠してきたことがある。君たちの家から大切なものを預かってある。今からそれを一人ひとりに手渡すので、ホテルのどこでも良いので一人になれる場所を探し、一人で読んでほしい。」

子どもたちは目を見開いて驚きます。そして一人ひとりに手渡すときに小さな声で「先生、ありがと」と言いながら子どもたちは受け取っていきます。

小さくうずくまって手紙を読んですすり泣く子、手紙をじーっと眺めて動かなくなる子、あまりの嬉しさで笑顔があふれる子。

よかった。

その夜、大騒ぎをして寝ない子は一人もいません。みんな静かに安心したように眠りにつきます。修学旅行ではよく枕投げをするとか、先生の見回りが来たら寝るふりをするとか廊下を走り回ってなかなか眠れないとかありますが、そういうこともなくみんなが安心して眠れるのはやはり親の力なんだなと思いました。

子どもは受け取る力を持っています。親が本気で「あなたを愛している」と言えば子どもは本気で受け取るのです。毎日一緒にいてもなかなか言えなくなってしまった本当の思いをどんな形でも良いので伝えてあげてください。

これは私が行った一例ですが、工夫をしてお子さんに「これは○○に着いたら開けてね」などのように自分で仕掛けることもできます。子どもが愛を感じて流す涙は世界一美しい涙です。

(続き)

実はこのストーリーには続きがあります。子どもたちはその日のうちに返信用はがきに親への手紙を書きます。自分が家に帰った後に届く手紙なので、ちょっと気恥ずかしさはあるかもしれませんが、親への感謝の葉書は思い出話とともにいつまでも親子の宝物になるそうです。